久世光彦の言葉

母は「辛抱しなさい」と私の耳に、熱く、激しく囁いた。

私の目の前に、一年前とおなじように、気が遠くなるような長い時間が霞んで見えた。

けれど去年と違って、私はそんなに卑屈な気持ちにはなっていなかった。

「シンボウ」のおかげだった

私は遠い母に、小さく笑って答えた。

久世光彦

『ニホンゴキトク』

久世光彦
1935年4月19日 – 2006年3月2日
東大仏文科卒。日本の演出家、小説家、実業家、テレビプロデューサー。テレビ制作会社「株式会社カノックス」創業者。テレビドラマ、小説ともに受賞多数。歌謡曲作詞や脚本家としてのペンネームに市川睦月（いちかわむつき）、小谷夏（こたになつ）、林紫乃（はやししの）など。なお、兄は元参院議員・金融再生委員長を務めた久世公堯。