これはいかにも不思議な事ではないか。
人間の内部は、見透しの利かぬものだ。
そんな事なら誰も言うが、人間がお互いの目に見透しのものなら、その途端に、人間は生きるのを止めるだろう。
何という不思議か、とは考えてみないものだ。
恐らくそれは、あまりにも深い心理であるが為であろうか。
人間の内部は、見透しの利かぬものだ。
そんな事なら誰も言うが、人間がお互いの目に見透しのものなら、その途端に、人間は生きるのを止めるだろう。
何という不思議か、とは考えてみないものだ。
恐らくそれは、あまりにも深い心理であるが為であろうか。
小林秀雄
東京生まれ。東京帝大仏文科卒。1929(昭和4)年、「様々なる意匠」が「改造」誌の懸賞評論二席入選。以後、「アシルと亀の子」はじめ、独創的な批評活動に入り、『私小説論』『ドストエフスキイの生活』等を刊行。戦中は『無常という事』以下、古典に関する随想を手がけ、終戦の翌年『モオツァルト』を発表。1967年文化勲章受章。連載11年に及ぶ晩年の大作『本居宣長』(1977年刊行)で日本文学大賞受賞。