デモクラシイの宣伝家ほど、個人の生活を侮蔑しているものはないのは、御覧の通りなのだ。
自分の私生活は、自分にとって貴重であって、自分自身にも分析の適わぬほど微妙なものだ、という強い自覚があれば、他人の私生活について仔細らしく語れもしまい。
他人の私生活に関する動物的な好奇心を抑制するものも、そういう自覚の他にあるとは考えられない。
それがデモクラシイ倫理の塩ならば、塩の利かない民主主義的生活なぞ食えた代物ではない。
自分の私生活は、自分にとって貴重であって、自分自身にも分析の適わぬほど微妙なものだ、という強い自覚があれば、他人の私生活について仔細らしく語れもしまい。
他人の私生活に関する動物的な好奇心を抑制するものも、そういう自覚の他にあるとは考えられない。
それがデモクラシイ倫理の塩ならば、塩の利かない民主主義的生活なぞ食えた代物ではない。
小林秀雄
東京生まれ。東京帝大仏文科卒。1929(昭和4)年、「様々なる意匠」が「改造」誌の懸賞評論二席入選。以後、「アシルと亀の子」はじめ、独創的な批評活動に入り、『私小説論』『ドストエフスキイの生活』等を刊行。戦中は『無常という事』以下、古典に関する随想を手がけ、終戦の翌年『モオツァルト』を発表。1967年文化勲章受章。連載11年に及ぶ晩年の大作『本居宣長』(1977年刊行)で日本文学大賞受賞。