石崖に、朝陽が射して
秋空は美しいかぎり。
むかふに見える港は、
蝸牛の角でもあるのか
町では人々煙管の掃除。
甍は伸びをし
空は割れる。
役人の休み日 ――― どてら姿だ。
『今度生れたら・・・・・・』
海員が唄ふ。
『ぎーこたん、ばつたりしよ・・・・・』
狸婆々がうたふ。
港の市の秋の日は、
大人しい発狂。
私はその日人生に、
椅子を失くした。
秋空は美しいかぎり。
むかふに見える港は、
蝸牛の角でもあるのか
町では人々煙管の掃除。
甍は伸びをし
空は割れる。
役人の休み日 ――― どてら姿だ。
『今度生れたら・・・・・・』
海員が唄ふ。
『ぎーこたん、ばつたりしよ・・・・・』
狸婆々がうたふ。
港の市の秋の日は、
大人しい発狂。
私はその日人生に、
椅子を失くした。
中原中也
1907年(明治40年)4月29日 – 1937年(昭和12年)10月22日)は、日本の詩人、歌人、翻訳家。旧姓は柏村。代々開業医である名家の長男として生まれ、跡取りとして医者になることを期待され、小学校時代は学業成績もよく神童とも呼ばれたが、8歳の時、弟がかぜにより病死したことで文学に目覚めた。中也は30歳の若さで死去したが、生涯で350篇以上の詩を残した。その一部は、結婚の翌年刊行した処女詩集『山羊の歌』、および、中也の死の翌年出版された第二詩集『在りし日の歌』に収録されている。訳詩では『ランボオ詩集』や数は少ないがアンドレ・ジイドの作品などフランス人作家の翻訳もしている。日本大学予科、中央大学予科などを経て東京外国語学校(現在の東京外国語大学)専修科仏語部修了。